動かぬ証拠は右へ左へよく動く。

 

フレッド・カサック「殺人交叉点」『殺人交叉点』(創元社、2000年)★★★

同書は表題作のほか、「連鎖反応」を収録。

有閑夫人のルユールが手懐ける美青年ボブと、彼の友人達がルユール夫人の周りで付き合ったり別れたりする中、ボブとヴィオレットは良い仲に。しかし二人は、ルユール夫人の家の庭で殺されてしまう。二人が互いを殺し合ったという結論で捜査は終わるが、時効目前に真犯人が映り込んだ証拠を、ある男が見つける。男はボブ殺害の真犯人を捕縛したい夫人と時効で逃げ切りたい真犯人それぞれに、現金を要求し、高い値をつけた方に証拠を引き渡すと言う。

倒叙物で、二人の人物(夫人と若者サークルの一人で、殺人犯)が交互の視点で、ボブとヴィオレットの事件に言及していく。と、読者に犯人を始めから明らかにしていると思いきや、最後に大どんでん返しが待っている。文体は引き締まっており、無駄な装飾がない。

この手の記述トリックはたとえば、円居挽『丸太町ルヴォワール』に通じるところがある。