物語は紫煙の彼方に

小西マサテル『名探偵のままでいて』(宝島社、2023年)★★★★

小学校教師・楓とレビー小体型認知症を患う祖父が物語の中心。楓が難事件や事件でない謎を持ち込み、祖父が自宅にいながら解決するという、安楽椅子モノ。連作なので、短編苦手な自分でも一気に読み切れた。

夜逃げ教師と33人の謎は、ちょっとわざとらしくて引っかかったが。

ところどころに古典ミステリーが紹介されるのが嬉しい。

事件がすべて片付いた後の楓と祖父の会話が、清々しい読了感を与えてくれる。

 

 

 

金田一耕助、大いにしゃべる

映像作品『獄門島』(2019年)長谷川博己ほか ★★★★

元はNHKBSプレミアムで放送された作品。

 

どうしても石坂浩二版と比較してしまうが、今作はストーリー自体は原作に忠実。

(「きちがい」など、特に真犯人)

この作品の評価が分かれるのは、金田一耕助像。

石坂の金田一はおっとり型だが、長谷川版はハキハキしている。

そして見どころは、謎解き部分。

怒鳴り、大笑いしながら犯人を精神的に追い詰めていく部分は、

石坂版、あるいは原作ファンからは不評ではないだろうか。

自分的には、大絶叫し大笑いし最後は失神する金田一も、悪くない。

早苗は、石坂版の大原麗子が良かったが、本作の仲里依紗も可憐で素敵だった。

 

 

 

 

傑作!傑作!

今村昌弘『兇人邸の殺人』(東京創元社、2021年)★★★★★

斑目機関の研究に興味を示す会社の社長成島と秘書についていく比留子と葉村。傭兵とともにテーマパーク内にある建物に侵入するが、そこには片腕の怪物が待っていた。どうやら斑目機関の研究と関係しているらしい。

中から出られなくなった建物の中で暴れ狂う怪物から逃れる一行。しかし、怪物がやったとは思えない成島の殺害により、互いに不信感を抱く。外部に出る作戦を練るが、そこでまた殺人が・・・。

比留子と葉村モノ、第3弾。前2作も面白かったが、今回も抜群の緊張感とテクニカルな推理。本作はなんと、中盤で成島の殺人犯が比留子によってあっさり読者に明かされる。しかも別に殺人者がいる、こちらが本筋。

班目機関の全容が明らかになるのはまだまだ先なのか。

 

 

 

大学教授、大活躍

エドマンド・クリスピン『お楽しみの埋葬』(早川書房、1959年)★★★

 

英文学専門の大学教授フェンが選挙運動のために地方に降り立つ。女性の毒殺、警官の刺殺、事故にあい入院している患者の殺人未遂と、次々事件が起きる。同時期に精神病院から患者が脱出し、行方知らずである。はたして一連の事件の真相は…。

脱走した精神病患者が犯人説、という読者から見るとどうみても誤誘導なのは置いといて、ミステリとしての謎解きは良くできている。情景描写も簡潔で、人物描写もわかり易い。ところどころに文学の名文句が出典とともにちりばめられていて、英文学専門の主人公という背景とマッチしている(以前紹介した『バイバイ、エンジェル』より馴染んでいる)。最後の選挙演説の長台詞はご愛嬌?

残念なのは、フェンの謎解きパートが短く、すぐ犯人追跡劇に移ってしまう終盤。もう少し、教授の名推理部分があっても良かった。

絶版なのが惜しい。

 

ハードボイルドはお好きですか?

紀蔚然『台北プライベートアイ』(文藝春秋、2021年)★★

大学の職を辞した呉誠は、雑然とした街に潜り込み、私立探偵の看板を立てる。最初に来た素行調査の依頼を首尾よく終えたのは束の間、連続殺人事件が起こり、呉は被疑者として逮捕されてしまう。果たして真犯人の意図はどこにあるのか?

素行調査事件はあまり、その後の連続殺人事件と関係がない(呉のアリバイ証明くらい)。しかも唐突なセックスシーン。

殺人事件も、殺人の本質的要素にならない暗示が出てくる。それを用いなくとも真相究明はできたと思う。

良い翻訳のおかげでスッキリ読めるが、作品の出来としては、評価が難しい。

 

4人、死ぬ。

今村昌弘『魔眼の匣の殺人』(創元社、2022年)★★★

好見地区の里である真雁にそびえる魔眼の匣。前作で登場の剣崎比留子と葉村譲は班目機関の謎を追うため、同地を訪れる。匣には予言者・サキミがいるという。道中を共にした高校生2名(女学生の十色は起こる出来事を先んじて絵に描く能力を持つ)や元好見の住人、オカルト雑誌の記者などが、橋の焼失で2日はその地から出られなくなる。サキミの予言は「11月最後の2日間に、真雁で男女二人ずつ、4人死ぬ。」

前作に続き、クローズドサークルもの。今回葉村は重要な役目を果たし、探偵比留子をサポートする。前回の『屍人荘の殺人』に比して、緊迫感やトリックの質はやや落ち、動機も分かりにくいが、それは前作がすごいからであって、比べなければかなり面白い作品。

思い過ごしかもしれないが、2作目に「匣」を持ってくるあたり、京極夏彦の2作目『魍魎の匣』をリスペクトしているのか。

 

血は、こえられる。

伊坂幸太郎『重力ピエロ』(新潮社、2006年)★★★★

私こと仙水(いずみ)と弟の春がメインキャラクター。春は、母親がレイプによって産まれた。二人は市内の連続放火を負うが、それと落書きに一定の関係があることに気づく。

サスペンス・推理要素より、兄弟、ひいては家族の結びつきに重点が置かれている。途中で犯人がわかってしまったとしても、家族の物語として、最後まで読ませる。