2022-01-01から1年間の記事一覧

4人、死ぬ。

今村昌弘『魔眼の匣の殺人』(創元社、2022年)★★★ 好見地区の里である真雁にそびえる魔眼の匣。前作で登場の剣崎比留子と葉村譲は班目機関の謎を追うため、同地を訪れる。匣には予言者・サキミがいるという。道中を共にした高校生2名(女学生の十色は起こ…

血は、こえられる。

伊坂幸太郎『重力ピエロ』(新潮社、2006年)★★★★ 私こと仙水(いずみ)と弟の春がメインキャラクター。春は、母親がレイプによって産まれた。二人は市内の連続放火を負うが、それと落書きに一定の関係があることに気づく。 サスペンス・推理要素より、兄弟…

洞窟の真実。

篠たまき『氷室の華』(朝日新聞出版、2021年)★★★ 夏休みに、氷室守をしていた父方の祖父の元に訪れた「ユウ坊」。彼は指の間の水かきに異常なほどの関心を抱き、その後の物語の進行も基本的に水かきが重要な意味を持つ。前半の人間模様の描写から、不穏な…

本質直観とは。

笠井潔『バイバイ、エンジェル』(創元社、1995年)★★ パリで起こる首切断死体、密室の爆発、森の中の死体など、連続事件。警察が攻めあぐねる中、日本人・矢吹駆が現象学の本質直観を用いて、真相に近づく。 …と書くと、典型的な本格物のようだが、いかんせ…

白い僧院を乗り越えて。

法月綸太郎『雪密室』(講談社、1992年)★★★ 美しい悪女が『月蝕荘』の離れで首を吊っているのが発見される。 しかも、発見者のもの以外、雪には足跡が残っていない。 捜査当局は自殺で事件を終了しようとするが、 休暇で訪れていた法月警視と息子の綸太郎は…

燃えるような、赤。

イーデン・フィルポッツ『赤毛のレドメイン家【新訳版】』(創元社、2019年)★★★ 乱歩が絶賛し、彼の『緑衣の鬼』の元になったといわれる1冊。 探偵役が入れ替わるのは、乱歩の『孤島の鬼』でもあるが、これも『赤毛』を元ネタにしているのだろうか?(『孤…

進めば極楽退かば地獄。

米澤穂信『黒牢城』(角川書店、2021年)★★★★ 時は戦国。織田を裏切った荒木村重は有岡城に籠城する。城内で起こる難事件(足跡が積雪に残らない殺人、凶相を示す首、四方を警護でかためられた庵内での殺人)を、村重が、捕らえた黒田官兵衛にヒントを与えら…

因果応報

フレッド・カサック「連鎖反応」『殺人交叉点』(創元社、2000年)★★ 「殺人交叉点」の後に収録されている中編。 婚約者ダニエルと妊娠させてしまった愛人モニクとの間で煩悶するするジルベール。 モニクに支払う養育費のため、ジルベールは昇給を望むがほと…

動かぬ証拠は右へ左へよく動く。

フレッド・カサック「殺人交叉点」『殺人交叉点』(創元社、2000年)★★★ 同書は表題作のほか、「連鎖反応」を収録。 有閑夫人のルユールが手懐ける美青年ボブと、彼の友人達がルユール夫人の周りで付き合ったり別れたりする中、ボブとヴィオレットは良い仲に…

乱歩も脱帽?

ジョン・ディクスン・カー『帽子収集狂事件』(創元社、2011年)★★ ロンドンで帽子が盗まれ、それが思わぬ場所に置かれる事件が繰り返される。サー・ウィリアム・ビットンもまた、帽子を盗まれた一人。しかも彼の帽子が、甥の死体の上で見つかった。サー・ウ…

変化球からの本格

今村昌弘『屍人荘の殺人』(東京創元社、2019年)★★★★ 第27回鮎川哲也賞、ほか受賞。 大学のサークルが夏休みを利用してペンションで合宿するというお約束の始り。さほど優秀な探偵役とは思えない明智とその後輩・葉村(語り手)は、構内で実際の事件に関係…

大鞠家の一族

芦辺拓『大鞠家殺人事件』(東京創元社、2021年)★★ 戦前、化粧品販売などで興隆した大鞠百薬館が、戦争の進展で衰退していく。その中で大鞠家3代に起こる、連続殺人事件。 第2章まで、大鞠家の物語を丁寧に描き、物語に没入しやすくしている。登場人物は丁…