彼女の目に映ったものは

山田風太郎「眼中の悪魔」「虚像淫楽」『眼中の悪魔』(光文社、2001年)★★★

1949年に日本探偵作家クラブ賞の短篇賞を受賞した2作品。

「眼中の悪魔」は恋人の珠江を趣味仲間の片倉に奪われた橘という人物による、手紙の形式で話が進んでいく。片倉の日記を読んだ橘が片倉の心理と犯罪を知り、更に自分の置かれた立場を告白するというもの。片倉の動機や橘の告白に不自然さはなく、医学の知識を用いた被害者の分析も良い。古い作品だが、令和の現在でも十分読みやすい文章で、スラスラ読める。

「虚像淫楽」は、昇汞を飲んだ元看護師が病院に担ぎ込まれるシーンから始まる。事件の真相を語らないままどんどん衰弱していく患者が、患者の夫の弟である卯助少年に向ける視線の意味とは。患者と少年の全身にある傷から、サディズムマゾヒズムに関する千明医師と塙科長の分析が始まり、服毒事件を真相に導いていく。患者の様態を医学的正確さで描写していく箇所がすこしクドいし、また事件の動機も弱い気がするが、「眼中の悪魔」同様に読みやすい。