怪しくなさ過ぎて、怪しい

F・W・クロフツ『クロイドン発12時30分』(東京創元社、2019年)★★★★

倒叙物の傑作。経営不振に陥った会社を救うため、叔父の遺産を狙った殺人を計画するチャールズの側から、その心の動きとともに描く。フレンチ警部が資産家とその執事の殺人事件の謎に迫り、チャールズは追いつめられる。終わりから三分の一程度がチャールズの裁判で、彼が絶望したり楽観的になったりする様子が描かれ、読んでいるこっちも息が詰まりそうになる。有罪確定となった後に、フレンチのアリバイ崩しが披露される。論理的に仮説を立て、足で稼ぐアプローチ。

解説に、『クロイドン』を法廷ミステリという観点から論じる箇所がある。そこでは有名な作品としてアイルズ『殺意』やクリスティ『スタイルズ荘の怪事件』が挙がっているが(前者は結構、退屈な記憶があるが)、むしろクリスティなら『検察側の証人』(映画邦題が『情婦』…)、またディクスン(カー)の『ユダの窓』(大傑作!)を挙げておいた方が良かったのではないか。 

 

クロイドン発12時30分【新訳版】 (創元推理文庫)