正しい社会とは
過激な内容の小説を書いたということで、国家組織だという通称「ブンリン」に呼び出され、あれよあれよという間に囚われの身となったマッツ夢井。スマホは圏外、食事も限られているという劣悪環境の中、施設の所長の意に沿う作文をしたりしながら、何とか外に出ようと奮闘するが、事態はどんどん悪い方向へ進む。ここで死ぬしかないのかと諦めかけていた矢先、脱出の可能性が出てくる。
表現の自由に関する議論がことごとく噛み合わず、施設側の人間は「正しい作品」を書かねばならないと繰り返す。ヘイトスピーチと差別的表現や犯罪描写がある小説とは、何が違うのか。前者と後者は一見違うようだが、実は深く掘っていくと違いは相対化されるのではないか。マッツ側の言い分を正しいと思う一方で、いや小説家の意図せぬところでヘイトスピーチと通じてはいないだろうか、と考えてしまう。
さすがの文章力で、300ページがあっという間に終わってしまう。圧倒的な緊迫感のある小説でした。ただ、ラストが唐突で、もっと膨らましてほしかった(十分面白かったということが前提でのおねだり)。