ゆめゆめ忘れるな。

小林泰三『アリス殺し』(東京創元社、2019年)★★

現実における地上の人物が夢(不思議の国)の人物の「アーヴェタール」だとしたら?

不思議の国の殺人事件に伴って、現実の世界の人物も不可思議な死を迎える。

不思議の国の住人・アリスは連続殺人の容疑者とされる。栗栖川亜理は地上で捜査を始めるが、地上でも不思議の国でも行動を共にしていた友人も死を遂げる。

 

どの人物が不思議の国の「アーヴァタ-ル」か確定しないまま、不思議の国の殺人と地上の連続死が続く。最後に誰がどの「アーヴァタール」だったかが、犯人確定の肝になるのだが、死にゆく蜥蜴のビルと同じく瀕死のアリスが証拠を残すためにした行動が、謎解きに決定打になっている。

不思議の世界と地上を行き来する記述は、村上春樹『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』を思い出す。

衝撃的なのは「アーヴァタール」と地上の人物の特定ではなく、最後の2ぺージ。この小説はこのどんでん返しゆえに、格別後味の悪い作品になっているのではないか。