大鞠家の一族

芦辺拓『大鞠家殺人事件』(東京創元社、2021年)★★

戦前、化粧品販売などで興隆した大鞠百薬館が、戦争の進展で衰退していく。その中で大鞠家3代に起こる、連続殺人事件。

第2章まで、大鞠家の物語を丁寧に描き、物語に没入しやすくしている。登場人物は丁稚も含めて、丁寧に書き分けられており、人間関係を了解してから、謎解きパートに入っていける。

ただ、殺人方法が技巧的すぎるきらいがある。殺され方が意味を持つでもなく、ただ残酷さが若干際立っているくらい。そして大きな問題でもあるのが、伏線回収の弱さ。元々が連載物ということが影響しているのかもしれないが、こちらで補完しないと物語が収まらない。

長編本格物として及第点は出しているものの、名作には一歩及ばず。