魅惑の密室

有栖川有栖『新装版 46番目の密室』(講談社、2009年)★★★★ 大学の助教授日村英夫と友人であり推理小説作家の有栖川有栖が活躍するシリーズの第1弾。日本のディクスン・カーと称される真壁聖一に呼ばれた推理作家、編集者たちがクリスマスを過ごす。白い雪が…

古書の海へようこそ

喜国雅彦『本棚探偵 最後の挨拶』(双葉社、2017年)★★★ 第68回日本推理作家協会賞〈評論その他部門〉受賞作で、本棚探偵シリーズ4作目。 楽しい古本蒐集エッセイだが、連載中に東日本大震災が起こり、大震災と本との関わりも考察されている。 この本の中の…

青春の血潮

有栖川有栖『月光ゲーム』(東京創元社、1994年)★★★★ 火山噴火によりキャンプ場に取り残された大学生たち。下山したくても下山できない状況の中で、連続殺人が起こる。クローズド・サークル、ダイイング・メッセージと本格物のポイントをしっかり押さえつつ…

息子は何処

藤田宜永「Y₁₀(ワイプラステン)の悲劇」『ハヤカワミステリマガジン』2020年7月号★ 画家である息子が住む高級マンションの部屋で、死体で発見された画商。行方不明の息子に嫌疑がかかる。現場に残るスクラブルの駒をたよりに、主人公は息子の無罪を証明する…

これぞ本格入門!

喜国雅彦・国樹由香『本格力』(講談社、2020年)★★★★ 『ROCKOMANGA!』でお馴染みの喜国先生とパートナーの国樹さんの共著。第17回本格ミステリ大賞(評論・研究部門)を受賞したものの文庫化。 「H-1グランプリ」が中心で、喜国先生の名作紹介エッセイ、国…

彼女の目に映ったものは

山田風太郎「眼中の悪魔」「虚像淫楽」『眼中の悪魔』(光文社、2001年)★★★ 1949年に日本探偵作家クラブ賞の短篇賞を受賞した2作品。 「眼中の悪魔」は恋人の珠江を趣味仲間の片倉に奪われた橘という人物による、手紙の形式で話が進んでいく。片倉の日記を…

怪しくなさ過ぎて、怪しい

F・W・クロフツ『クロイドン発12時30分』(東京創元社、2019年)★★★★ 倒叙物の傑作。経営不振に陥った会社を救うため、叔父の遺産を狙った殺人を計画するチャールズの側から、その心の動きとともに描く。フレンチ警部が資産家とその執事の殺人事件の謎に迫り…

初心者向けと見せかけて、中級者以上向け

藤原宰太郎・藤原遊子『改訂新版 真夜中のミステリー読本』(論創社、2019年)★★ ミステリー初心者向けの入門書あるいはブックガイドに見えて、実はミステリーファン向けの本。ネタバレ多数。個人的には乱歩の「火縄銃」とポーストの「ズームドルフ事件」の…

姉は宝石をどこに隠したか

高木彬光『神津恭介、犯罪の蔭に女あり』(光文社、2013年)★★ ド級の名作『刺青殺人事件』の著者・高木彬光の短編集。期待して読んだのだが、短編という性質のせいか、今一つ仕掛けに深みがない。1つ1つは明快な文章で書かれていてサクッと読めるのだが、読…

猫は悪くない

仁木悦子『猫は知っていた』(ポプラ社、2010年)★★★★ 1957年に発表された、江戸川乱歩賞受賞作。仁木雄太郎と妹の悦子が、下宿先の医院の家族の殺人と患者の失踪事件に挑む。筆致は軽妙でスイスイ読める。トリックはさすがに現代の推理小説の水準からすれば…

旅って、いいなぁ

アガサ・クリスティー『ナイルに死す』(早川書房、2020年)★★★★ クリスティーの旅行物の傑作。エジプト旅行の前半がわりとダルいが、船内で殺人が起きる後半のフリになる人物描写やポワロのセリフが含まれているので、読み飛ばさずに頑張って読み進められよ…

家族の物語

京極夏彦『塗仏の宴 宴の始末』(講談社、2003年)★★★★★ 『宴の支度』の後編。村の消失、怪しげな集団たち、旧作の登場人物が全て1つの筋に収束し、戦前の巨大な秘密にぶち当たる。おなじみのメンバーの挙動がおかしくなり、何を信頼すればわからない混乱の…

ハコの中身はなんだろうな

映画『魍魎の匣』(2007年)★★★ 映画『姑獲鳥の夏』とは監督違い、また関口役の俳優も永瀬正敏から椎名桔平に変更。少女バラバラ殺人、元大女優の娘の列車事故、新興宗教の跋扈が1つの巨大な謎を構成し、それに京極堂たちが挑んでいく。『姑獲鳥の夏』と異な…

密室の帝王への挑戦

柄刀一『ジョン・ディクスン・カーの最終定理』(東京創元社、2020年)★★★ 2006年、カーの生誕100周年に出されたアンソロジー『密室と奇蹟』に含まれていた短編を大幅改稿したもの。大学生たちが、カーの書き込みがある『未解決事件への入り口』の難事件を、…

村の消失

京極夏彦『塗仏の宴 宴の支度』(講談社、2003年)★★★★ 初出は1998年。村の消失を中心にしつつ、宗教団体、予言者、旧作の登場人物などが、妖怪の名をつけられた6章の中で目まぐるしく動き回る。各章は妖怪を暗示する内容が展開される。本書での京極堂、榎木…

妊娠20ヶ月の妻と、失踪した夫

映画『姑獲鳥の夏』(2005年)★★★ 京極夏彦のデビュー作の映画化。細部に原作と違いがありながらも、全体的な雰囲気は非常に良い。堤真一演じる京極堂が、早口で難解な内容を話し続けるのも原作のイメージに近い。他の配役も面白い(篠原涼子がチョイ役扱い…

オカルトと論理の交錯

相沢沙呼『medium 霊媒探偵城塚翡翠』(講談社、2019年) ★★★ 霊媒師・城塚翡翠と作家・香月史郎のコンビが難事件に挑戦する物語。翡翠による超自然的問題解決の提示と、香月による合理的に納得できる論理への置換によって、犯人が捕縛される。最終章にどん…

そこはかとない恐怖

シャーリィ・ジャクソン『ずっとお城に暮らしてる』(東京創元社、2007年)★★ 原作は1962年。ホラーのジャンルに入ると思うのだが、殺人があったり怨霊が出てくる類ではない。一人の少女の視点から、日常が変化し、崩壊していく様が描かれているのだが、この…